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祥雲の忘れられないお仕事 山車彫刻「玉匣社」

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こんにちは、祥雲です。

今回は祥雲の彫刻のお仕事についてご紹介したいと思います。舞台は静岡県磐田市中泉(なかいずみ)JR磐田駅の南北にまたがる町です。中泉はとても歴史が古く、「天平通り」と呼ばれる通りが中泉の中心を走ります。

名の通り天平時代に由緒をもつお社「府八幡宮」がご鎮座。親しみを込め”八幡さま”と呼ばれています。府八幡宮では毎年10月に例大祭が行われ、中泉各町の山車が曳き出されます。二輪・四輪・御殿屋台など山車の形式が一つではない、実に楽しく見応えのあるお祭りです。

その町のひとつ、久保町玉匣社の山車彫刻について、お話ししたいと思います。

■ はや二十五年前のこと

久保町の皆さんと関わりを持ったころ、まだ30代。山車新造のお話を頂き、その真剣さとお祭りに対する真摯な向き合い方に”本物のお祭りに対する情熱”が何たるかを教えて頂きました。

日本中から集めた名作と呼ばれる彫刻を見せて頂き、一度は「この人たちに満足してもらえる彫刻はできないかもしれない・・・」と思ったことも、正直あります。

最初に書いた下絵では全然だめだと思い、全ての下絵をいちから書き直しました。彫りに掛ける時間もずっと多く、今思えばこの玉匣社の仕事が今の祥雲の彫刻の基礎になったように思います。

■ 山車 玉匣社

平成10年建立。建造は県内の宮大工、彫刻は我々、錺師、人形師、刺繍、足廻りなど皆が力を合わせて作り上げたものです。様々な形式が同居する中泉のお祭らしい、四輪せり上げ式の山車です。

彫刻は「二十四孝」「仙人」「唐子」「霊獣」「日本書紀」など、三教(儒教・道教・仏教)複合した題材を取り入れています。これは玉匣(ぎょくこう)という名の由来にも沿っています。中国で14世紀ころに発行された「玉匣記」という書には占い、夢判断、魔よけ法、御札、吉凶そして神仏や神仙の誕生日などが記載された暦を中心としたものだそう。日本ではこれを基にして江戸時代に「大雑書」という書物が発行されています。

”玉匣社”という名前は明治初期、府八幡宮の神官より御名を頂いたということです。もちろん神社のお祭りですから、上山鬼板「天孫降臨」や前山鬼板・懸魚「神功皇后・武内宿禰」などの日本の神々を代表としながらも欄間「琴高・黄安仙人」「四神(青龍・玄武・朱雀・白虎)」持ち送りの「唐子」など彫らせていただきました。

■ 彫刻「二十四孝」

二十四孝(にじゅうしこう)は、中国において「たいへん孝行である」という24の人物と逸話です。たとえば「臥冰求鯉」は王祥という人物が、継母のために鯉を捕ろうと冬の氷の池に裸で横になって祈っていると、突如氷が割れて鯉が飛び出し、継母に煮て食べさせることができた・・・という具合です。

もうひとつ、非常に有名な「乳姑不怠」、唐夫人は歯のない姑のために自分の乳を与えたり髪をすいたりと身の回りの世話を毎日のようにし、やがて姑が死に臨む際、唐夫人の行いはたいへん孝行であると高く評価した・・・というもの。

ややもすると眉をひそめるような逸話ですが、範となる行いとして日本の寺子屋などでも教えられたそうな。古代の昔話といったところですね。

■ 彫刻「仙人たち」

二十四孝がごく普通の人たちの善行だったのに対し、仙人とは人間でありながら仙術・神通力を会得した人たちです。おちゃめでがんばりやな仙人が私たちは大好きです。

「琴高(きんこう)仙人」は鯉に乗っている仙人。このように生き物を使役する仙人はたくさんいて、飛んだり跳ねたりする姿がチャームポイントです。「黄安(こうあん)仙人」は亀に乗っています。通称亀仙人。”亀に乗りたい”という夢は永久に不滅です。

さて、つぎの写真は「蝦蟇(がま)仙人」と「鉄拐(てっかい)仙人」脇障子の彫刻で、縦長の構図になっているので、すらっとした姿になっています。かえるのボコボコ感がもはや愛らしさを漂わせています。

次に「費長房(ひちょうぼう)仙人」。鶴に乗っている仙人、つまり空を飛べるので、亀や鯉に比べると格段に高い移動性能を持っています。

さて、ここで費長房にまつわる昔話をひとつ。

費長房は中国後漢の人物です。薬売りの”壷公(ここう)”という人物が、河南省汝南県にやってきました。ある時、壷公が小さな壷に飛び込むのを費長房が見てしまいました。びっくりした費長房は頼み込んで、彼とともに壷の中の別世界に連れて行ってもらいました。費長房は仙術を得るため壷公の弟子になり、修行を始めましたが、その修行内容は過酷で理不尽極まりないものでした。

【壺の中での修行】
① 虎の群れの中に入れられる
② ボロボロの綱で吊る下がっている巨石の下に寝転がり平気なふりをして寛ぐ

①②の修行をクリアした費長房でしたが、最後の修行内容が壷公より告げられました

③虫がうようよ湧いた大便を食べる

費長房「できません」

壷公「なんと・・・不出来な弟子だ」

こうして費長房は不条理を感じながら天界へ行くための修行を断念。しかし師匠から特別に護符をもらい、長大な距離を移動したり化け物退治をしたりする力を身に着け、この後も大活躍を見せることになるのです。

いちばん安全な修行は③ではないかという野暮な申し入れは控えるとして、こんなおちゃめな仙人たちのストーリーにはとても魅力がありますね。

■ 彫刻「柘榴に鸚鵡」

仙人のエキセントリックな逸話に流れて行ってしまいそうになりましたが、玉匣社の彫刻のうち大きな見せ場となっているのがこの柘榴に鸚鵡(ざくろにおうむ)。

正直に申しますと諏訪立川流の彫刻に大きな尊敬をもって彫らせて頂いたものです。

山車の後方、左右の脇障子に入れたこの彫刻は、柘榴の木に鸚鵡が止まる、およそ日本では見られない花鳥の題材です。

彫刻は材料の幅と長さ(縦と横)の寸法に加え、その厚みが最も重要な要素です。例えば丸いざくろの実を彫る時、厚みがなければ平たいビスケットのように彫るしかありません。ですが厚みがあれば実の立体感・表面の質感やしわまで表現できます。

ただお察しの通り、厚みがあればあるほど彫刻の手間が掛かります。鸚鵡の体の裏側、葉っぱ一枚一枚の厚みと裏側、すべて彫り抜かなければ完成できません。まず材料ありきで、そこにどれだけ手間と時間をかけているか。これに尽きます。

■ 彫刻「元気な唐子」

唐子は”中国の子ども”というそのままの意味ですが、縁起物とされるおなじみの存在です。平たく言えば彫刻の題材のひとつとしてカテゴリー化されているんです。遊んだり、いたずらしたり、失敗したりと色々な表情を見せて楽しませてくれます。

天真爛漫な唐子のように、町の子どもたちも元気に育ちますように・・・という大人たちの優しい願いが込められた彫刻です。

■ 二十五年たっても

山車は落慶してからが始まりです。25年たってもああしたいこうしたいと、お祭りを続ける中でもっともっと山車を大切に、良くしたいという気持ちが町の皆さんの中にもあれば、私たちのような業者の中にもモヤモヤと潜んでいます。だからこそ我々ももっと良いものを見て見聞を広げていきたいと思っています。

ぜひ10月の府八幡宮例大祭の折にあっては、一度中泉へ足を運んでみて下さい。

それではまた!

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山車・屋台・神輿の無料点検、修理、メンテナンスなど行っています。山車の健康診断(無料点検)・修理計画の作成や助成金申請のお手伝いもしていますので、お気軽にご相談ください。

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