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令和の ”仁王” 建立プロジェクト

「仁王」といえば東大寺をはじめ、いにしえの名だたる仏師による名作を思い描きます。私たちもいつか手掛けてみたいと思っていました。しかし今の世の中、新規で彫らせていただく機会は中々ありません。

そんな中で頂いた仁王建立のご縁。ここが見せ場と思い、”今の時代でもこれだけのものが彫れる”んだという気概で取り組んだ一大プロジェクトです。

■いざ、下絵をたずさえ現地へ!・・・ところが

仁王建立の舞台は秋田県!静岡県民である私たちには想像が及ばない雪国です。なにしろ雪見遠足(※)の時くらいにしか雪を見たことがない我々にとって、場所の確認はとても大切な事でした。

秋田県能代市「梅林寺」。まだ新しい木のにおいがする山門の両脇に仁王像を納めます。日当たり・風向き・周囲の地形・そして雪の具合。仁王を取り巻く環境を確認することができました。

(※)雪見遠足とは ☃ 
雪の滅多に降らない静岡県(主に中部)で行われている雪を見るための遠足のこと。主に幼児の遠足として行われ、県内でも雪が多いとされる富士山などが目的地。そりで滑ったり雪だるまを作ったりして雪に親しむことがたのしみである。静岡県民がいかに雪慣れしていないかを象徴する慣習である。

■下絵を当ててみる

目線の高さと横材との関係はどうか、階段からどう見えるか、台座の高さをどう調整するか…徐々にイメージが固まってきます。工場へ戻り、ふたたび下絵に手を入れます。

後ろの立ち姿にもわきあがるような力強さを感じられる仁王を目指し、下絵を完成させました。

■つぎに、スケールモデルの製作

さて、まだ本番の彫刻には至りません。実物の1/5サイズで同じものを作ります。今回のプロジェクトにおいて、この”ミニ仁王”が大きな助けになりました。

大きな仏像を作る場合、すこしの歪みが大きな違和感となって現れてしまいます。そのゆがみを最小限に抑えるため、正確なスケールモデルを用意しておきます。

1/5なので、実際の下絵とくらべればこんなに小さいものになります。

■いよいよ材料を準備します

材料は楠(クス)です。20年以上自社で天然乾燥させてあり、厚み6寸(約180ミリ)ほどに挽いて保管していたもの。

最後の写真で縦に並んでいる材料。この一枚一枚が1/5モデルの5倍の厚みになっています。すでにフルサイズの仁王製作がスタートしているわけです。

■ついにノミ入れ

ここからが長い作業の幕あけです。スケールモデルを横に、こまかく寸法と縮尺を確認しながら形を荒く出していきます。彫刻の「冴え」は仕上げで決まりますが、一番大切な「流れ」は荒彫りで決まります。

■仏像と言えば、玉眼が見せ場!

歴史の古い仏像(飛鳥~平安)は彫眼(ちょうがん)と呼ばれ、眼を彫り込んだものでしたが、鎌倉時代に玉眼(ぎょくがん)というガラス・水晶を用いた技法が仏像に使われるようになりました。

眼の描きかたは仏像の種類によって違います(如来、菩薩、天など)。仁王には黒目に赤と金のふちどり、そして白目の部分に血走った毛細血管がその威力を物語ります。

■割れを防止し、軽くするための工夫

多くの仏像は内刳(うちぐり)と呼ばれ中を抉ってあります。そうすることによって材料の割れを防止し、なおかつ軽量化することができます。仁王にもかなりの内刳を施してあります。

もし内刳していなかったら一体何キロの仕上りになったかわかりません。完成品でも4人で持つのが精一杯でしたから。

■やりがんな

こんな珍しい道具も使いました。槍鉋(やりがんな)

これは起源としては非常に古い大工道具で、現代の筆箱のような四角形の鉋が使われるようになったのは割と最近です。

鉋は仕上げの道具です。足の裏側と衣の間を仕上げるために登場します。大きな彫刻ならではの道具です。

■長い道のりを経て・・・

仏体だけに目がいきがちですが、台座や天衣(てんね)、髻(もとどり)など実に多くの部材でできています。どれだけ書き連ねても表現できない時間と手間がこの仁王に詰まっています。

次ページ 仁王、秋田に立つ!


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