■ 解体の前に
修理はまず調査から。実際に山車を曳く人の話を聞き「なぜこの部分が痛むか」を明らかにします。せっかく直してもまたすぐに傷んでしまうのでは意味がありません。修理方針は何より大切です。
■ 先人の思いが見えるできごと
解体中の出来事です。正面破風の格天井(ごうてんじょう)の裏から漢文「千字文」が見つかりました。「天井裏に文字があるらしい」という古い話を聞き調べたところ現れました。建立当時の人たちの山車に込めた想いが見える出来事です。
■ 本来の表情が見えてくる
府八幡宮例大祭は古く夜祭りが主だったため、ガス灯を用いた灯りが使われていました。すすの汚れが酷く、洗浄に手間が掛かりましたが、時間をかけた分だけ綺麗になりました。人物の表情がはっきり、生き生き見えるのがわかります。
■ 建立当初の仕事を尊重して
改修工事はバラしてまた組み立てるだけではありません。長く曳き回して弱くなった”ほぞ”や接合部分の強化など「仕口調整」をします。そして山車の水平と垂直を出し直します。写真では、柱のほぞに一枚薄い板を当て、ぎっちり入るようにしてあります。
■ 白檀(びゃくだん)塗りの腰板
さて、黒漆の板に刷毛でくるりと円を描いて模様を付けています。通常の黒漆だと粘度が足りなくて渦巻き模様を作ることは難しいのですが、これは漆に”卵白”を混ぜて形が残るようにしています。
仕上がり。オレンジのような褐色のような色。これは先ほどの渦巻き板に金箔を押し、さらにその上から漆をかけた白檀(びゃくだん)塗りです。塗り直し前は金箔が剥がれまっ黒な板でしたが、元の状態に戻すことができました。
掛塚の坂田歌吉棟梁の手による鑾留閣の山車。唐破風の反りも美しく力強い。450を超える錺金具と、木彫刻とのバランスも素晴らしい、工芸技術の粋(すい)を集めた山車と言えます。
■ お祭りが繋ぐ縁
左が古い幕、右は下絵参考にさせていただいた愛知県美浜町布土”護王車”の幕。構図が同じです。実は左の幕は数十年前に西町の皆さんで刺繍を別生地に一度移し替えています。なので、場所によっては原型がはっきりしない部分もありました。そこで数千枚ある写真の記録の中から同じ構図の幕を探しに探しやっと見つけ、下絵参考にさせて頂いたのです。
■ 下絵復元、そして完成
この幕のために羅紗(羊の毛織物)を水色に染めました。岩や波がしらに色の変化をつけ、陰影と立体感を出しています。岩の刺繍は”相良刺繍”と呼ばれる一粒一粒ずつ縫いつぶしていくたいへんに手のかかる方法で仕上げられています。
■ これからの100年
今回は建立100周年事業として修繕を手掛けさせていただきました。これから100年後にも末永く山車が残っているよう仕事をしたつもりでおります。いつまでもご町内の皆さんとこの山車が共に歩んでいくことを祈念いたします。
お問い合わせ
山車・屋台・神輿の無料点検、修理、メンテナンスなど行っています。山車の健康診断(無料点検)・修理計画の作成や助成金申請のお手伝いもしていますので、お気軽にご相談ください。
工事内容一覧
【木工事】
(新調)床板(檜材)
(新調)高欄(檜材)
(新調)駒寄(檜材)
(修理)山車解体仕口調整
【幕工事】
(新調)水引幕「松に鷹」
(新調)見送り幕「登竜門」
(新調)紫三方幕
(新調)飾り房一式
【彫刻】
(修理)彫刻一式
【漆工事】
(新調)高欄
(新調)駒寄
(修理)唐破風屋根廻り一式
(修理)台輪・車輪
(修理)柱、虹梁、斗組
(修理)腰板白檀塗り復元
(修理)螺鈿、「西」文字復元
【金具工事】
(修理)錺金具一式
(修理)筆メッキ修理「菊水」
【綱】
(新調)曳き綱