第2回 動き出す前にすること

「とりあえず動こう」と言いたい気持ちはよく分かります。ですが、山車の修理は動き出す前の段取りで、ほぼ流れが決まっていきます。この回では、実際に手を付ける前に、町内で一度そろえておきたい考え方をまとめます。

■ すべての修理をするのか、将来に残すのか

今回やりたいと温めている修理内容は「これをやればもうしばらく触らなくていい」修理なのか、若い人を交え育て「この部分は将来やってくれ」と余白を残したものにするかどうか。

われわれ祥雲がよく聞く話、「30年前くらいに修理したみたいだけど、誰がどこで何をしたのか全然記録ないんです」これが本当によくあります。

よく「修理計画」という言葉を使いますが、これには「現状の把握」と「前提の共有」が必要です。

・いまの状態を言葉にできるか
・どこまで直したいのか
・誰のために直すか
・修理後の面倒はだれが見るか
・何を残したいか(夢と理想の共有)

当面大丈夫ならいいのか、直しながら使うことを前提に、若い人にノウハウを残すか。修理計画にまず必要なのはこういうことだと思います。

■ 予算は業者に教えてあげる?あげない?

信頼できそうな業者も見つかり、いざお見積もりしようという中で、予算を教えるかどうするか。伝えれば希望の予算でできる可能性もありますが、基本的には教えてあげないでしっかりした修理方法を業者側に考えてもらうのがいいと思います。

業者側からしても、このくらいの金額で見積して、“必要十分+α いいもの作ろう”というアタマで動いてもらったほうが良い。逆に“この予算内に納めるにはこのくらいの内容でやらないと合わなくなるかな”というアタマでは攻守が入れ替わったくらいの違いがあると思います。

■ 見積の基準をそろえる方が大切。でも難しい

予算を言わないことよりも大切な事。それは複数の業者に相見積もりを取る時に内容の基準をそろえる事です。

修理の方法は千差万別で、A業者ができることもB業者だと代替の方法になることがあります。極端に言えば漆の手塗りができないので、合成樹脂の下地で、ウレタン塗料で塗る。これをいずれも「塗装工事¥******-」と提示されていたらどうでしょう。圧倒的にBが安価ですが、品質は異なります。このように見積の基準をそろえて金額比較するのが難しいのです。

所有者側はまず自分たちの山車がどのように作られているのかを勉強(専門家の方に見て頂いてもいいし)して、業者のいいなり or わからないから任せます!的な妥協 はなるべくしないことが大切です。

■ 助成金・補助金の話を十分に詰めた?

宝くじ助成金・文化庁の助成金などなど、助成金いろいろあります。他にも銀行や財団などが出しているものもあり、調べてみる価値があるものです。

ただ、助成金の存在はとてもナイーブで取り扱いに気を付ける必要があります。どんなことかと言うと、特に助成額の大きな文化庁の助成金(最大85%:上限1000万円)の申請をしてみようとなった時、もうもらえたような気になって「お金もらえて安く修理できるかも!」こんなふうに町内に発表したらみんな「その気」になってしまいます。

「その気」というのは安く修理ができるという喜びではなく、「寄付しなくてもいいんだね」というラッキーマインドに近いです。ですから助成金の話はあくまで事業の核となる人が事務的に進めて、もらえた場合・だめだった場合どちらのプランも考えておく。そうすれば本当にしたいことを見失うことはないと思います。

想像してみてください。町内に大風呂敷を広げてから「もらえませんでしたので、修理をあきらめることにします」というのはあまりにも残念です。ラッキーマインドを失った人たちに改めて寄付を募るのも難しく感じてしまいます。

■ 手を貸してくれた人にどう返すか

恩返しの話。善意で寄付をくれた人は基本的に見返りを求めていませんが、そのお金がどんな成果をあげてくれたのか、それは純粋に知りたいし、報告があって然るべきと思う人もいます。

祥雲では、成果を伝えるツールとして報告書の製作を積極的におすすめしています。みなさんに配ったり、公会堂に置いたりでき、記録の共有にもつながります。

古材の活用も恩返しの一つです。表札や千社札は王道ですが、公会堂の備品や根付、ハンガー・お念珠・スマホ置きなど。柱として使えなくても、生まれ変わらせることはできます。

■ 事業の記録を何に残す

上でもご紹介した「30年前くらいに修理したみたいだけど、どこで何をしたのか全然記録ないんです」という事象。本当によくあることなので二度言いました。

何を直したのかもわからないし、誰が担当だったかもわからない がだいたいセットで付いてきます。

全てとは言いませんが、昭和後期から平成の中頃までに行われた修理というのはおおむね良くない修理が多いです。この時代は経済的には前向きだった代わりに伝統・工芸・職人が軽視されてきた時期でもあります。同時に祭礼・伝統工芸・文化財修理の世界で使われてきた漆や天然乾燥の木などの素材に代わる、新しい素材も多く出てきました。夢の塗料・建材・新技術。これらは一時もて囃されても、令和になった今見てみると酷い状態になっている場合がほとんどです。

「どこをどう直した」それだけでも記録に残す価値があります。若い人を主役にしなくてもいいから事業に関わってもらって(横で見てるだけでもいい)、修理の内容は記念誌や報告書にして紙で残す。未来の世代がまちがった修理をしてしまわないためにも、今の我々が「道すじ」を拓いておくことこそ大切です。

今ご紹介した検討事項はあくまで一例。修理事業はそれに付随する事柄がたくさんあります。私たち祥雲も良い例や実践をたくさん集めてご紹介できればと思っていますが、そういう情報ほど集まりません。これからも皆さんの体験から学んでいければと思います。

祭り道具を修理する前に、町内で一度話しておいたほうがいいこと 【 記事一覧 】 

第一回 修理と寄付の話

第二回 動き出す前にすること

第三回 無関心な人について考えてみる

第四回 まわりの人に修理が必要だと言いたいとき(製作中)

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