愛知県知多郡武豊町は冨貴市場。三河湾を眼前に控え、浦島伝説のあるこの場所には、上山に舟を乗せた「天王丸」があります。今回は、山車の土台となる台輪(だいわ)を令和5年度に修理した改修工事をご紹介します。
■ 材料と人の手と
両手で抱えられないほどの大きさのけやき、木芯も樹皮もなく、節もわずか。このくらいになると樹齢はあたりまえのように200年を超えてきます。これも立派な自然の恵みです。自然を利用して、人の手で誰かの大切なものを作り出す仕事でもあります。
■ 良材を思いっきり贅沢に使う
この台輪、主な部分は板巾で50cmほどですが、上の写真の通り、ツンと上を向いています。つまりこれより後ろにおいては材料を削り落としているわけです。元々の板巾は80センチ近いものから切り出しています。もったいないと思うかもしれませんが、この静かなる大贅沢が祭りの粋でしょう。
■ 組み上げを終え、きっちり納まるとやはりうれしいです
鎬(しのぎ)を削り、彫刻を仕上げ、漆を塗り、現地でくみ上げて完成となります。大変に手間がかかるだけでなく、常日頃の材料管理がものを言う仕事です。これからも安全にいつまでも、代がどんどんどんどん変わっていっても、ここで曳き続けられることを祈念しています。
■ ここから後編 「太鼓台」修復編 です
とある年の秋の名月祭の時、隣町からおさそいがありました。左の太鼓がこちらの「小」太鼓台。右は隣町のもので、違いはあまりにも歴然。実は「大」太鼓台は倉庫にあるのですが、50年以上も手つかずのまま眠っているのでした。悔しさをぐっと堪えて「大」太鼓台を引っ張り出しますが・・・
■ ちょっとそのままじゃ~…
作られた当初はきっと立派なものだっただろうと思います。しかし漆も剥がれ、金具も地が出てしまっています。建具の調子も悪く、ちょっとそのままじゃ~使うのは難しいかな。
■ 試し打ち
修理前の太鼓台に太鼓を乗せて試し打ち。太鼓ばちを持つこの方は、50年以上前にこの太鼓を叩いていたという齢90を超える御仁。大太鼓を引っ張り出すと昔の血が騒ぐのか、周囲が驚くほどの音が大きい太鼓を叩く。これがきっかけで「大」太鼓台、しっかり直そう!という気運が高まりました。
■ 木地修理、弁柄(べんがら)塗り
ここからは祥雲のお仕事。古い塗装を剥がし、木地を修理。欠けたり割れたりしている部分に補材(新しい木を埋め込み)して元々の形状に合わせて削ります。
漆に弁柄(べんがら)を混ぜたもので塗装。漆ですから温度と湿度を高めに保った環境でないときちんと乾きません。だいたい湿度70%~85%、温度24℃~28℃に保ちます。
■ これが本物の堅地
漆の下地作業の様子です。表面の黒漆の下にはとてつもなく強靭な昔の漆下地(堅地)が残っていて、これを平らにするのにとても苦労しました。50年以上の時間を経ても、漆下地に守られた木質部は健全なままです。
担ぎ棒の部分です。下地が完成し、中塗り工程に移ったところです。もうすぐ完成?いえ~まだまだです。塗っては研ぎ、また塗っては研いで上塗りまで長い道のりです。
■ 修理、塗り直し完成
足廻りは知多型山車に同じく台輪と輪切りの護摩(車輪)。漆塗りの枠が乗り、合計六枚の引き戸が嵌まります。中にはせり上げ装置の糸車があり、長尺の担ぎ棒が二本渡されています。この鈍くしっとりとしたツヤが漆の魅力。
今は山車を曳き回した後、山車蔵に納める前の「迎え太鼓」として叩かれています。囃子をあげて労をねぎらう、そんな役目があります。一度使われなくなった道具も、人の熱い想いがあればいつでもよみがえる。そんなことを感じさせてくれる素敵なお仕事でした。
お問い合わせ
山車・屋台・神輿の無料点検、修理、メンテナンスなど行っています。山車の健康診断(無料点検)・修理計画の作成や助成金申請のお手伝いもしていますので、お気軽にご相談ください。
工事内容一覧
【木工事】
(新調)引き戸(6枚中2枚)
(修理)台輪割損部
(修理)本体敷居溝
【漆工】
(修理)台輪弁柄塗り
(修理)本体・梶棒黒漆面金漆
(修理)欅板木地呂漆
【彫刻】
(修理)木鼻「獅子」
【金具工事】
(修理)既存錺金具再鍍金