2025年も桜咲く季節となりました。
ことしは春祭りに合わせ「吹き流し竿」が完成しました。手間を掛けた逸品ですので、ご紹介したいと思います。
■ 吹き流しの竿とは
その名の通り、竿です。丸い棒です。
が、下写真を見れば、どんな棒でも良いわけではないということがご理解いただけると思います。吹き流し竿の頂上には「吹き流し頭」と「吹き流し」が付き、戦国時代の馬印のようにどの山車かがわかるよう個性を持って制作されたものです。

てっぺんにあるふさふさした物が「吹き流し頭」。すこし下がって赤い布「吹き流し」がついています。この”頭”や”吹き流し”にこだわるのは当然ですが、”竿”自体もこだわりを詰め込める部分なのです。
■ 木で作ります!
当たり前のことを叫んだような気がしますが、大切なことなので。決してアルミとか塩ビとかではありませんし、角材を丸く削っただけでもありません。折れずによくしなり、元に戻る弾性を持たせるため、古くから長槍や竿は心材に桧・その周囲に竹を巻いて漆塗りで仕上げたものが使われてきました。今回の竿もそれらの「古いモノ」から学び制作しました。

ハイ、桧の心材に竹を巻いてあるのがわかります。これを固めて、丸く削ります。
言うは易しですが、この竹もかなり肉厚の竹です。若い竹では厚みが足りません。大体直径で140mm(円周440mm)くらいのふっとい竹、しかも長さも必要です。途中で長さを継ぎ足すことはできませんので、太さを維持しながら4m以上の長さで材料をとらなければいけません。
なお、竹はいつもお世話になっている菊川の正林寺さま(菊川市高橋)の竹林から切らせていただきました。マムシがいるぞとご住職にご忠告を頂きながら、太い竹を探し、切った2年前の8月はいい思い出です(笑)
■ あわびで螺鈿蒔き
今までも本番ですが、ここからも本番です
先に、今回の漆塗りの仕上げ名称をお伝えしておきますと「布着せ堅地黒漆螺鈿蒔き仕上げ」といったところになります。

丸く削り、漆工程がスタートしました。これに布を張り、下地を付け研ぎを数工程繰り返し、螺鈿蒔きまで進んでみましょう。

実際に使用した螺鈿(あわび)です。かなり拡大している写真です、一粒2~4ミリというところです。白っぽく見えますがその通りで、貝自体も、これからの研ぎ・磨き工程を経て光っていくようになります。

非常に簡略化していますが、下記のような工程を経て完成となります。ひとつひとつの項目にもさらにいくつもの工程が含まれています。
この螺鈿は、実際に蒔いたものよりも少し大きな貝でテストしたものです。このように何度も試行錯誤を繰り返す、一点ものを作るやりがいと難しさが交錯します。
■ もう螺鈿を蒔くところが無い

螺鈿を蒔いて、さらに工程を進め研ぎ・塗りを繰り返して最終完成となります。美しさと強靭さを兼ね備えるため、数々の工程を経てここまでやってこれます。もはやたかが竿いっぽんとは言えません。

エンド部分は下に着地する部分ですので、木地を守るため糸を巻き漆で固めました。木口の強度は重要です。
■ そして、吹き流し頭の制作
竿が完成したら、並行して「吹き流し頭」の制作をすすめていきます。

木地は桧。漆塗りするので木部はまったく見えなくなってしまいますが、まぐろのトロのような良い桧を使用しています。材料選びは手を抜きません。

てっぺんに鎮座する玉の下地工程です。湿度・温度を管理して乾燥させ下地がカチッと決まりました。ここから箔下という漆を塗り、箔押しによって金の玉になります。
■ 終わりなき?!植毛
”頭”に植えるのはシャグマ毛です。人の毛にも見えますが、触ってみると硬さや縮れ具合で違いを感じます。

穴の数はおよそ1200、終わりなきは言い過ぎですが、差し込み・竹釘で固定を繰り返して植毛していきます。

一段目のアデランスを完了しましたがまだまだ薄毛ですのでどんどん増毛していきますよ。
苦労ポイントとしては、まず一つの穴に入れる最小単位の毛束を大量に用意するのが大変でした。小さな穴の中にスイスイ差し込みたいですので、末端を処理して作業が効率よく進むように・・・事前の準備が7割です。

なんとか最上段まで植毛を終えることができました。毛の本数としては約80000本/1頭くらいです(笑)

かかりました・・・時間が・・・とても・・・。箔押しが最後の工程となり、「吹き流し頭」完成となりました。”竿”と”頭”使用するのはこれから(25年4月)の予定です。天高くそびえたった暁にはお写真載せていきたいと思います。
さて、如何だったでしょうか。棒一本にもこれだけの技法と手間(つまり魂)を込め与える余地があるという話でした。永くお使いいただけると私たちもうれしいです。

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