
文政10年(1827年)建立。その名の通り、楓葉の彫刻があしらわれ、からくり人形「楓童(ふうどう)」が木の上で軽妙な動きを見せてくれます。名古屋型山車の改修工事例をご紹介します。
■ 台輪の反りから来る、柱ほぞの痛み

尾張横須賀の山車は楫棒の後ろ側を持ち上げて向きを変え地に降ろす「どんてん」が祭りの粋です。着地の衝撃は柱が”しなる”事で吸収されますが、”柱ほぞ”が緩んでいると衝撃は山車の様々なところに影響します。台輪と柱の痛みはかなり進んでいたので、台輪(土台)と柱を新調し、かっちりとした山車本体を取り戻します。
■ 木取り、ひのき四方柾の柱

まずは柱の木取りです。ずいぶんややこしい位置で切っていますが、これは四方柾(しほうまさ)という取り方です。木材を贅沢に使い、四面全てが柾目(まさめ:縦に真っ直ぐの木目)の最高級の方法です。楓童車にはすべて四方柾のひのきを使用。製材も細心の注意を払います。ここまでくると、材料を取るのも半ば意地みたいなものです。
■ 漆、金箔、錺金具

200年近く山車を守ってきたのはやはり漆のチカラです。丈夫な下地は残しつつ、天然漆による手塗りで修理。金箔は漆の上に押してゆくので漆箔(しっぱく)と呼びます。このワラビ手彫刻は蜃(シン)と呼ばれる珍しい霊獣を題材にしています。
■ 鉄への焼き付け漆と、螺鈿

螺鈿(らでん)はアワビやアコヤガイなどの貝殻を漆に埋め込む技法。左の板は漆の中に螺鈿が埋まっている状態。これを研ぎ出して上に透き漆をかけたものが右。時間をかけて表面の褐色が消え、美しい貝の輝きに仕上がります。
■ 200年前の水引幕、復元新調

200年前に作られた先代の幕と同じ「龍虎」「鳳凰と麒麟」「亀」図を復元新調しました。新しい刺繍の霊獣たちはその年の横須賀まつりのポスターにもなりました。
■ 本藍染め

本藍で染めた絹糸です。上の復元した水引幕に使いました。旧幕にも使われていて、藍は糸を丈夫にし、細菌・虫害に強くなります。先代の幕が200年保ったのも、この本藍染め糸を使用していたからこそです。

■ 楓彫刻の修復

「楓童車」の名の由来でもある楓の葉。山車の中段、獅子彫刻の下にこの風雅な彫刻があります。失われた部分を補作し、漆で塗り直しました(写真は彫刻修理の時点のもの)。色の使い分けが繊細で、年月を経た漆の趣ある色は必見です。
■ 山車蔵での組み上げ

山車蔵での組み上げは緊張もしますが特別なものがあります。「いい柱だねえ」と褒めてもらったり、昔話を聞いたりと、作業の中では分からない山車に込められた想いを実感します。
■ 同町、本町組にて

さて、こちらはお隣の”尾張横須賀本町組”です。車軸を赤樫の芯去材で作り直しました。”どんてん”に耐える素性の良い、木目が細かく、粘りのある材料を選びました。
お問い合わせ
山車・屋台・神輿の無料点検、修理、メンテナンスなど行っています。山車の健康診断(無料点検)・修理計画の作成や助成金申請のお手伝いもしていますので、お気軽にご相談ください。
工事内容一覧
【木工事】
(新調)台輪および下駄箱(欅材)
(新調)床板(檜材)
(新調)柱・貫(檜材)
(新調)格子建具(檜材)
(新調)屋形せり上げ装置(檜材)
【幕工事】
(新調)水引幕「龍虎」
(新調)水引幕「鳳凰と麒麟」
(新調)水引幕「亀」
(新調)四方緋大幕「北町」
(修理)幕金具「五七の桐」他
【彫刻】
(修理)獅子彫刻取り付け部修理
【漆工事】
(新調)台輪擦り漆
(修理)三味線胴、高欄黒漆
(修理)壇箱唐木部分擦り漆
【金具工事】
(新調)水引幕「龍虎」
(新調)錏(しころ)格子支持金具(楓葉)
(新調)台輪兜金正面螺鈿板
(修理)三味線胴、高欄再鍍金
(修理)台輪兜金焼き付け漆