こんにちは、祥雲です。
みなさん「新調」と「復元新調」
というふたつの言葉を聞いたことがあるでしょうか。
よく似ていますが、実際はまったく違う仕事です。どちらもゼロから作りはじめるのは同じですが、その完成を「現物通りに」するのが「復元新調」です。細やかなディテールまで近づけることを求めると、「新調」に膨大な手間と時間が上乗せされるのが「復元新調」です。
■ 舞台は愛知県半田市
上半田北組「唐子車(からこぐるま)」

創建は弘化3年(1846)
現在のおくるまは大正13年(1923)完成。唐子車名前の由来は、壇箱に入る初代彫常(新美常次郎)の唐子彫刻からと言われています。
赤く大きな幕が側面にかかっていますが、背面の高い位置にちらりと見えるものが、今回の主役である「見送幕(追幕)」です。
■ ”復元新調”の重み
冒頭に述べましたように、復元新調の重みは別格です。見た目だけでなく素材や技法についても徹底的に調べ、設計段階で間違えの無いようにしなければなりません。

糸の太さや留め方、刺繍の流れなど、すべて重要な情報です。

古い幕とは言っても、本金糸の色めきは格別です。
■ 桐に鳳凰
さて、みなさん桐の花をみたことがあるでしょうか
5月頃に咲き、藤の花を上向きにしたような姿です。植林はあまりされていないのか、雑木林の中にふいに咲いていたりします。
桐に鳳凰というのは非常に古くからある題材で、ひとえに”吉兆”を示します。鳳凰は霊獣のひとつで、その美しい姿から金具・彫刻・刺繍・蒔絵などあらゆる装飾の題材として使われています。

こちらがおくるまの背面。見送り幕”桐に鳳凰”

この刺繍幕を「復元新調」して参ります。
■下絵起こし
写真はレンズの影響で歪みがあります。ですから最も正確に下絵を写す方法はやはり「手」です。

実物をトレースした手写しの下絵はやはり正確です。鳳凰の本体はもちろん、桐と雲もそれぞれ独立した部品として下絵を起こし、雲1、雲2、桐1、桐2・・・と番付を振り管理します。

こうすることで雲のヒョロヒョロした尻尾の部分に至るまで、感覚ではなく決められた答えとして使える製作資料になるわけです。
■生地と文様
写真は幕の裏側です。

周囲を囲んでいる”金襴(きんらん)”は市松柄に見えますが正式なこの織物の名称は「霰(あられ)に鳳凰」となります。市松柄という呼び名は江戸時代からだそうで、古くは霰と呼んでいたそうです。

次に裏地。波状の線が上下に連続している立湧(たてわく・たちわく)という古様(有職文様)で、平安時代からあるものです。この波状のふくらみの中に”雲”が入っているので、この文様は雲立湧(くもたてわく・くもたちわく)となるわけです。高貴な人に愛され使用された格式のある文様なのです。
■刺繍と縫製

刺繍は個々の部材ごとに製作し、重なり合って表地に留めていくことで完成します。本金糸は絹糸に金箔を巻いたもので、素材としては非常に高価で金の相場によっても値段が左右されます。

古い刺繍の金糸の金含有量を調べてみると、どの部位も85%ほどが金、8%ほどが銀(ほか鉄・亜鉛・聞いたこともない元素)であることがわかりました。

縫製前の状態です。こんな姿も貴重です。
■金具の修理
さて、ちょっと余談ですが、山車の大幕にとても品のある留め金具が使わていました。意匠は桜、手間をかけた仕事です。


欠損部を修理し、桜部分は漆を塗りました。座および筒の部分は金鍍金にて仕上げ。
■完成

いよいよ、完成です。総金の迫力と、美しさは年月を経てさらに良い風合いを帯びていきます。

お披露目、祭礼の様子です。ちょうど赤レンガ倉庫の脇から住吉神社の宮池前に向かうところです。

住吉神社にて、上半田南組福神車と並びます。

現車の建造からおよそ100年、当時の発起人のご先祖さまたちに感謝しつつ、今年も半田の春がやってきます。
それではまた次のブログでお会いしましょう!

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